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LDLコレステロール値

“人は血管とともに老いる”という名言を19世紀の内科医サー・ウィリアム・オスラーが残したことはよく知られている。 確かに、血管は臓器の恒常性の維持や組織の再生に不可欠であることから、人や動物の血管の動脈硬化の進行の状況が分かれば余命を知るところになると考えられる。 血管の内側には動脈硬化抑制作用をもつ血管内皮細胞という一層の細胞がある。この細胞は分裂再生はするものの多くが休止期状態にあるとされる。つまり血管内皮細胞は加齢によるDNAの複製エラーによる異常が起こりにくい組織だといえる。しかし、さまざまな環境的要因により加齢とともに血管内皮細胞機能が衰えると動脈硬化が進行し、血管は硬くなり内腔は狭くなる。 動脈硬化の現象でとくにアテローム性粥状(じゅくじょう)動脈硬化は、日本を含む先進国における疾患発生および死亡の主な原因となっている 血管内皮細胞機能が衰えると血液中の余分なLDLコレステロールが血管内皮細胞の隙間を抜けて血管の壁に入り込むことが知られている。 そして血管の内壁にLDLコレステロールが蓄積して、粥腫〔アテローム〕の隆起〔プラーク〕が形成される。 虚血性心疾患患者数の男女別年齢分布グラフ ※出典:厚生労働省 平成23年度患者調査「総患者数,性・年齢階級×傷病分類別」より作成 (公益財団法人日本医療機能評価機構ガイドラインより抜粋) 動脈硬化の危険因子のひとつにLDLコレステロールがある。 日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドラインや厚生省の発表によると総コレステロール値は220mg/dl以上、LDL(悪玉)コレステロール値は140mg/dl以上、またHDLコレステロール値は40mg/dl以下になると、狭心症や心筋梗塞の合併が増えるとされている。 そして、この数値から外れると脂質異常症と診断される。脂質異常症では、血液中にLDLコレステロールや中性脂肪が増えることで、動脈硬化や心筋梗塞などを引き起こすリスクが高くなるという。 日本では脂質異常賞と診断される患者数は中高年層を中心に、予備軍まで含めると2000万人以上にもなると推定される。 脂質異常症の診断で最近、LDLコレステロール値÷HDLコレステロール値で示されるLH比が重視されている。 オムロンのホームページより抜粋 血液検査でたとえば、LDLコレステロール値が174mg/dlで、HDLコレステロール値が58mg/dlとすると、LH比は3.0となる。 LDLコレステロール値が基準値よりかなり高い状態で、さらに、LH比でみると3.0というのは、動脈硬化が進んだかなり危険な状況だとされる。LDLコレステロール値が基準値よりかなり高いので肝臓におけるコレステロール合成を抑える抗コレステロール薬(通常、スタチン系薬)を処方される可能性が高い。 そして最近では、LDLコレステロール値が120mg/dlで、HDLコレステロール値が40mg/dlで、どちらの数値も基準値内だとしても、LH比は3.0となり、動脈硬化が進んだ状態と診断されるようになった。 その理由はLDLコレステロールが140未満の正常範囲内の人でも心臓疾患や脳血管疾患になるケースが多く見られるようになったことに加え、HDLコレステロール値が低いと心臓疾患や脳血管疾患を起こす例が増えてきたことに基づくようだ。 さらにHDLコレステロールが高い人でも、まれに動脈硬化を起こすことが分かってきた。そこで多くの病院では動脈硬化の予防として、両方のバランスを示す数値(LH比)を動脈硬化性疾患のリスクの参考と見るようになった。 LH比が2.5以上だと動脈硬化や血栓のリスクが高いため、他の病気がない場合は2.0以下に、高血圧や糖尿病がある場合、あるいは心筋梗塞などの病歴がある場合には1.5以下にを目安とする病院が増えてる。 どのタイミングでどの薬の処方するかについては医師の判断に任せている。通常であれば(基準値を大きく外れていない場合)、脂質異常症の治療は、まずは禁煙や食事療法、運動療法などによる生活習慣の見直しから始まり、これらを数ヶ月間にわたり行っても改善しない場合に薬物療法が開始されるようだ。 なにより有酸素運動をしても、HDLコレステロール値は多少上がることが知られているが、LDLコレステロール値が低下することはない。 ちなみに、2014年に日本人間ドック学会が150万人のデータをもとに公表した基準値によれば、男性の場合でLDLコレステロールの値を178mg/dl まで正常とした。 これに対して、日本動脈硬化学会は 血清 LDL コレステロール値が高いと冠動脈疾患の発症及びそれによる死亡と明確な関連があることは、日本のみならず、世界的に多くのコホート研究で証明されており、また、LDL コレステロールの低下により、冠動脈疾患を含めた心血管イベントの発症が抑制されることも多くの無作為化比較対照試験で示されているとコメントした。そして日本動脈硬化学会は 人間ドック学会の基準範囲は日本国民の健康に悪影響を及ぼしかねないと人間ドック学会の基準値の見解に強く反論した模様だ。 その影響か現在では、日本人間ドック学会のLDLコレステロール値の基準値は60~119mg/dlとなっている。HDLコレステロール値の基準値は40mg/dl以上と動脈硬化学会と厚生労働省が示す基準値と同じである。 コレステロールはリン脂質とともに細胞膜の材料になり、細胞の分裂再生にコレステロールは欠かせない。またコレステロールは生命維持に欠かせないさまざまなホルモン、ビダミンD、胆汁酸などの材料となることも知られている。 コレステロールを生体内の各組織に輸送する役割を果たすのがLDL(低比重リポタンパク)だ。 日本動脈硬化学会と厚生労働省の公表する脂質異常症に対する基準値に真っ向から反論する見解がある。 2010年の日本脂質栄養学会の17万人の原因別死亡率についての発表(コレステロールダイドライン)によると、コレステロール値で原因別の死亡率について分析すると、総コレステロール値あるいはLDLコレステロール値が高い男性は、心疾患で死亡するリスクが、およそ2倍に高くなるが、心疾患以外では脳血管疾患を含め、逆にコレステロール値が高い方が死亡率も下がる結果となった。また女性は、心疾患でも死亡率との関係は見られなかったという。日本脂質栄養学会では、2018年度にも日本動脈硬化学会のガイドラインに批判的な内容の論文を発表している(LDLコレステロールの上昇を伴わない動脈硬化の発症および日本動脈硬化学会のガイドラインに対する批判 )。 日本動脈硬化学会委員会や厚生労働省はLDLコレステロール値を140mg/dL以上、HDLコレステロール値を40mg/dL未満を基準値として脂質異常症を定義した根拠を示しているのに対して、日本脂質栄養学会のガイドラインによれば、これらの数値は、年齢、性別、先天性遺伝因子をもつ人の割合などが適切に考慮されておらず、データそのものも対象者数が少ないため信頼性の高いものではなく、この基準値を一般集団に適用すれば、むしろ健康長寿を損なう危険なものとなっていると述べている。 1987年から2006年にわたり東海大学では神奈川県伊勢原市在住の約2万5千人を対象にして平均8.1年間の追跡調査を行い、男性はLDLコレステロール値が高くても死亡率に変化はなく、100mg/dl以下は総死亡率が上がるという結果が出でいる。また女性も120mg/dl以下で総死亡率が上がったという。つまり、心筋梗塞の発症率は、家族性高コレステロール血症といわれるごく一部の人を除けば、コレステロール値が高くても上昇しないことが明らかとなった。 現在、LDLコレステロール値が高い場合は下げる方が良いというのは多数の研究結果により定着した考え方になっているが、こうした結果からLDLコレステロール値が低いほど、総死亡率が高くなっている可能性を否定できない。 実際に、コレステロールは免疫をつかさどる造血肝細胞の分化増殖に必要であり、造血幹細胞より分化増殖した白血球は、1日に数千個あまり発生しているとされる癌細胞を取り除く役割を果たしている。 動脈硬化が進行したアテローム性粥状動脈硬化の所見では、血管壁にプラークといわれる異常な組織が形成されるが、プラークの形成は、血液中の余分なコレステロールが活性酸素やフリーラジカルによって酸化修飾され血管内皮細胞の隙間を抜けて血管の壁に入り込むことから始まるとされる。この血管に形成された異常な組織を除去するのにも造血幹細胞から白血球の一種であるマクロファージへの分化増殖が必要である。 動脈硬化は生まれてすぐの0歳の時から始まると言われているが、動脈硬化の進行状況にはかなりの個人差があるとされる。 動脈硬化の進行には、LDLコレステロールの血中濃度よりも、中性脂肪などが関与するLDLコレステロールの小型化、酸化変性LDLの生成、加齢に伴う血管内皮細胞の機能低下、抗酸化力や免疫機能の低下が大きく寄与している可能性が高いと考えている。 血中のLDLコレステロール値が高くなる理由に、多くの場合、加齢や体質が関与していると考えられる。そして遺伝子レベルにおいては、一つもしくは複数の遺伝因子の寄与や相互作用が予想されるが、その詳しいメカニズムの解明は未だ不十分で今後の研究が期待される。 遺伝子疾患の一つに家族性高コレステロール血症がある。現在、家族性高コレステロール血症では原因となる遺伝子異常がいくつか見出されている。たとえば、原因となる遺伝子として見出されているのに血中LDLの異化を担うLDL受容体のほか、アポリポ蛋白B-100、PCSK9の遺伝子変異で、いずれもLDL受容体の経路において重要な役割を果たす分子であるとされる。 家族性高コレステロール血症の患者は中高年でみられる高コレステロール血症に比べて若年(ホモ接合体の患者は100万人に1人程度の頻度で、新生児期からより著明な高LDL高コレステロール血症の症状(400~ 500 mg/dL)がみられ、ヘテロ型の場合、患者数は200人~500人に1人の頻度、10代から高LDLコレステロール血症の症状(LDLコレステロール値が180 mg/dL 以上)がみられる)からLDLコレステロールの増加の程度が著しく動脈硬化の進展は早く、それに伴う心疾患や脳梗塞などの発症リスクが非常に強くなるという。 家族性高コレステロール血症の患者以外で、血中のコレステロール値が高くなるときに薬物投与に際して問題になるのが先に述べた加齢、性別や体質だと考えられる。 自己免疫疾患の患者やアレルギー体質の人はほとんどは慢性の病気で、自己免疫疾患の患者では体内の正常な物質がウイルス、薬、日光、放射線などの影響で変化し、変化した物質を免疫系が異物と認識する。例えばウイルスに感染すると体の細胞が変化するが、この細胞が免疫系を刺激して各種の免疫細胞の攻撃を促すとされる。アレルギー体質の人は生体にとって無害な異物(アレルゲン)に対し、免疫反応が起こる。自己免疫疾患やアレルギー体質では細胞の損傷が通用より多く引き起こっていると推測されるので免疫系細胞の動員や各組織の再生が活発化していると考えられる。 現在のところある人に自己免疫反応またはアレルギー疾患が発生する引き金となっても、別の人ではならない物質が存在する分子メカニズムは大体が不明とされるが、遺伝要因(つまり体質)が関与している可能性が高い。この場合、免疫系は各種の免疫細胞を動員して損傷を受けた組織を活発に再生していると考えられる。 日本人の二人に一人がかかる花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、女性に多い関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患は、一つの遺伝子の変異で発症にいたる疾患ではなく、これらの疾患に罹患しやすい体質(疾患感受性)」をもっている人に、何らかの環境要因がからみあって発症すると想定されている。 したがって自己免疫疾患の患者やアレルギー体質の人がコレステロール値が上がるのは理にかなっている。 […]

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